『新しい時代の働き方』を考えるデザインプロジェクト

プロジェクトの背景

私たちが働く環境は大きく変わりました。在宅勤務によって、通勤による移動時間や満員電車のストレスから解放され、嫌いな上司とも毎日顔を合わせなくても仕事ができるようになりました。一方で、生活空間に仕事空間が侵食し、プライベートとの境界が曖昧になることで残業が長くなるなどの問題も起きています。オフィス空間の意味も再定義する必要がありそうです。人生の大半を占める「働く」という活動を再定義し、新しい時代の働き方について考えます。

※この記事は、カチノデ代表の森が大学の卒業制作として制作したデザイン提案のプロセスを改めて整理してまとめたものです。また、記事作成にあたり、デザインプロセスに関する表現などを、書籍『リサーチ・ドリブン・イノベーション 「問い」を起点にアイデアを探究する』から引用させていただきました。

チーム構成

  • 森一浩:企画/ディレクション担当
  • 藤田一秀:プロトタイプ制作担当
  • 中島正人:プロモーション映像制作担当

今回はクライアントやスポンサーは存在しません。在学中に起業していたため、森個人の卒業制作でありながら、カチノデの社内プロジェクトとして実施しています。

プロジェクトの進め方

多くのデザインプロジェクトは一般的に、①方向性の探索→②方向性の定義→③アイデアの生成→④アイデアの検証という流れで進行します。これは、2004年に英国のデザインカウンシルが提唱した「ダブルダイヤモンドモデル」がベースになっています。デザインプロセスは問題発見と問題解決の連なりであるという考え方で、前半が問題発見、後半が問題解決の行程です。

本プロジェクトの最終的なゴールは「テーマに沿って何らかの価値提案を行う」ことです。ある特定の課題を解決したり、明確な数字目標を達成するようなゴールではなく、新しいビジネスの種になりうるような具体的な価値を可視化することが重要です。この価値が可視化された状態こそが、ビジネスとしての仮説検証を行うためのスタートラインです。

発散から収束まで(1つのダイヤモンド)は、次のような流れで進行します。

  • 問いを立てる 自身の興味関心や内面から生まれる課題感と、市場や顧客のニーズや学術的データなどの外的要因とを往復しながら問いを立てます。
  • データを集める 問いに対する理解を得るためのデータ(わかるためのデータ)、メンバー間で多様な解釈を生むためのデータ(作るためのデータ)を集めます。
  • データを解釈する 主観的かつ定性的にデータに解釈を加え、問いに対する考察を前進させます。
  • 合意を形成する 次の活動へつなげていくための前提を一致させます。

大学の研究なども、学生が自身の研究テーマを設定する際などは基本的には同じような流れで行われているかと思います。

前半フェーズ – 方向性の探索と定義

「新しい時代の働き方」というテーマを、①自身の知識・思想と結びつける、②自身の不満・欲求と結びつける、③学問領域・世間の話題と結びつける、④既存の解決策やニーズと結びつける、という方法で、様々な問いを立てると、次のような問いが生まれました。

  • ビジネスマンのパフォーマンスをどのように可視化できるか?
  • 子どもに「働くパパかっこいい」と言ってもらうことは可能か?
  • 人生100年時代における働き方とは?
  • 最もストレスフリーな働き方とは?
  • 働き方を個別最適化することは可能か?

これらの問いから、様々なデータを収集し解釈を加えていきます。その結果「コロナ禍によって働き方が多様化する中、働くことの意味が個人個人で大きく変わってきているのではないか、さらにその働くことに対する考え方の違いが表面化したことがストレスの原因なのではないか」という仮説が生まれました。

働くことを、ある人は「会社に拘束されて労働時間を売っている」と捉え、ある人は「お金をもらいながら自分の興味関心を探究する時間」と捉えています。従来からそのような考え方の違いはありましたが、コロナ禍によってそれらの価値観の違いが表面化・強調されたということです。

そこで、後半フェーズ(アイデアの生成)に向け、チーム内での合意形成として次のような問いを立てました。

私たちはどうすれば、働くことにポジティブな意味を与えられるだろうか?

後半フェーズ – アイデアの生成と検証

アイデアを生み出す

後半フェーズでは、合意形成によって生まれた問いに対して、具体的なアイデアを生み出していきます。ここでは自由な発想で、否定せずにどんどんアイデアを発散させていきます。チーム内での議論の結果、次のような「働くことをポジティブにするアイデア」が出てきました。

  • 日々の業務の中で「探究の時間」をつくる。自分の興味関心がある分野×事業内容で調査してレポートにまとめてみる。
  • 会社に対する自分の貢献度が可視化される仕組みをつくる。
  • パフォーマンスが下がってきた社員に対して、カウンセラーが悩みなどを聞く時間をつくる。
  • 一人一人がキャリアデザインをして、ゴールまでの道のりや選択肢を俯瞰的に理解しておく。
  • 働く人を「ビジネスパフォーマー」と捉え、働いている姿そのものが魅力的に世の中に発信される。

この中から、多”様”決によって、具体的に検討するアイデアを決定します。チーム内で「共感したアイデア」と「違和感のあるアイデア」に投票し、それぞれの票数の積が最も多いアイデアにフォーカスしました。その結果選ばれたアイデアがこちら。

働く人を「ビジネスパフォーマー」と捉え、働いている姿そのものが魅力的に世の中に発信される

共感の意見としては「みんな本当はお金のためじゃなくて承認欲求が満たされるために働いている」「デザイナー版のライブペインティングは面白そう」といったもの、違和感の意見としては「見方を変えるとただの社畜」「発想は面白いけど、具体的にはどうやって実現するのか」といった疑問が生まれました。ここから、具体的なアイデアをスケッチに描き起こしていきます。

アイデア①「競技イベント×仕事」

アイデア②「キャリーバッグ×デスク」

アイデア③「ゲーミフィケーション×仕事」

プロトタイピング

他にもいくつかアイデアはありましたが、プロトタイピングにあたって何を選択するか決めなくてはなりません。そこで、チーム内で次のような問いを立ててみました。

カチノデで導入するとしたら、どのアイデアを選ぶだろうか?

この問いに対して、リモートワークが主流でありながら、クライアントのもとへ行きその場で制作することもあることから、アイデア②をもとにプロトタイピングすることになりました。

コンセプトの再定義

新しい働き方というテーマのもとで生まれたこのアイデアですが、もう一度コンセプトを定義し直しました。

移動できるワークスペース『Anywhere Desk – どこでもデスク』

個人のクリエイターや小規模クリエイティブチームが、新しいイマジネーションを得るために自分の活動を様々な場所に拡張したり、クライアントのもとへ出向いて新たな価値を創出、提供する。その姿はクリエイターのライブパフォーマンスであり、新しい時代の働き方。

デザインの検討

5分の1スケールでモックアップを制作します。プロダクトに必要な機能、サイズ、造形のディテティールを検証することが目的です。

モックアップを作成した結果、天板の上にモノを置くと重心が不安定で危ないということが判明しました。そこで、天板部分を本体の直方体と一体にする方向で、実寸大プロトタイプのデザイン案を検討します。

平面図をもとに、実寸大プロトタイプを作成します。大人が着座してちょうど心地よく作業できるサイズで、かつ15インチのラップトップを天板に乗せて作業できることを確認しました。

また、今回のプロダクト『Anywere Desk』のプロモーション動画を作成しました。特徴の異なる様々なロケーションで撮影を行い、活動拠点を様々な場所へ拡張できるというコンセプトを強調しています。

あとがき

大学を卒業して2年近くも経つのになぜこのタイミング(2022年2月)で記事にまとめたのかというと、カチノデとして今後力を入れていきたいプロジェクトの原型が、まさに自分が過去の卒業制作で提案した内容に近かったためです。また、あるイベントで先述の書籍『リサーチ・ドリブン・イノベーション』の著者の一人である小田裕和さんのお話を聞き、また同書を拝読して、今まで散乱していた思考や情報が一気に整理された感覚があったためです。改めて感謝申し上げます。

カチノデでは、今後もこのようにあるテーマをもとに問いを立てながらデザインを検討していくというプロセスで様々なプロジェクトを進めてまいります。ご興味のある方はぜひお問い合わせフォームよりお問い合わせください。